ペットとの生活の効用

犬との暮らしで認知症の発症率が40%も低下する?!

犬との暮らしで認知症の発症率が40%も低下する?!

皆さんは、ペット飼育と認知症の発症には深い関わりがあることをご存知でしょうか? 実は、昨年末にとてもセンセーショナルな研究結果が論文発表されました。

結論から言います。

犬を飼育している人は、非飼育者と比較して「40%」も認知症の発症リスクが「低い」ことが明らかになりました。

この研究は、東京都健康長寿医療センター・社会参加とヘルシーエイジ研究チームによって行われ、65〜84歳の高齢者11,194人を対象に、約4年間の追跡調査が行われました。(平均年齢:74.2歳/女性の割合:51.5%) 

その結果、下のグラフが示すように、「犬を飼っている人」の非飼育者に対する認知症発症オッズ比は「0.6」でした。これはつまり、「犬を飼っている人」は「(犬・猫)どちらも飼っていない人」と比較して、認知症の発症リスクが40%低下するということを示しています。

また、犬の飼育と他の生活習慣との組み合わせで考えた場合、犬を飼っている人のうち「普段から運動(散歩など)をする人」や「社会的に孤立していない人」は特に認知症の発症リスクが低下することが明らかになりました。

ただし、「猫を飼っている人」の認知症発症オッズ比は「0.98」で、認知症発症リスクにほとんど差は見られませんでした。

これは、一緒に暮らすペットが犬か猫かの違いで認知症の発症リスクが変わるということを示す大変興味深い結果でもあります。

なぜ、犬の飼育が認知症の発症リスクを下げるのか?

犬と暮らしていると、一緒に散歩をする人がほとんどだと思います。そして、犬との散歩を通じて知り合った友人知人と、日々の散歩で会えば言葉を交わすことでしょう。

他者とのコミュニケーションが、認知症を予防するうえでの重要なファクターであることは広く知られています。

さらに、犬の散歩をする飼い主さんは、少なくとも1週間に150分の中等度の運動量を達成する可能性が2.5倍も高いとされていることから、犬の散歩は、認知症の予防に重要な運動習慣をもたらしてくれていると言えます。

そして、犬の散歩は、運動習慣だけでなく、高齢者の他者とのコミュニケーションや社会的交流の機会を増やし、精神的健康の改善にもつながっていると考えられます。

「身体活動の低下(体を動かさなくなること)」と「社会参加の低下(外に出て活動しなくなること)」が、認知機能の低下および認知症の発症率上昇に関連していることはすでにわかっています。

この研究結果は、犬との暮らしが高齢者にもたらす運動習慣や社会参加が、認知症の予防に効果的であるということを科学的に明らかにしたと言えます。

散歩は犬のためでもありますが、高齢者の心と体の健康にも役立っているのです。

高齢者とペットの暮らしを支える支援環境の必要性

以前の研究によると、犬の飼い主は他のペットの飼い主よりもコロナ禍での幸福度が高かったそうです。つまり、犬との暮らしは、コロナ禍で経験した「人との交流の制限」に直面しても、犬と散歩をすることで体を動かし、友人知人との会話で社会的交流を行うなど、運動習慣や社会参加の機会を保つことに貢献していた可能性があります。その結果、犬の飼い主の幸福度が大きく低下しなかったのではないでしょうか。

犬と一緒に暮らすことで認知症の発症リスクが40%も低下したり、幸福度の維持につながることはとても喜ばしいことです。

しかし、環境や健康面・経済面での不安など、さまざまな要因でペット飼育を躊躇したり諦めてしまう高齢者が多いのも事実です。

今後は、高齢者が安心してペットと一緒に暮らせるよう、社会的支援システムや飼育サポートサービスを拡充するなど、社会的な支援環境の整備が必要となるでしょう。