- ペットとの生活の効用
ペット飼育がもたらす喘息発症への影響とは
動物とのふれ合いが人間に与える影響について、今日まで、さまざまな研究が行われてきました。そして、人が動物とふれ合うことが心理的、生理学的、社会利益的に好影響を与えるということが数多く実証されています。
犬や猫などのペットと暮らすことは、子供の身体活動レベルや社会性、道徳的行動にプラス効果があることがわかっています。
また、成人や高齢者についても、血圧や高脂血症、肥満、生存率など、ペット飼育は健康上の多くの問題に影響を及ぼすこともわかっています。
今回は、国立環境研究所のチームが行ったペット飼育と喘息の発症リスクとの関係を論文に基づいてご報告します。
犬や猫とのふれ合いによって、喘息の発症リスクが半減
この研究には、ペットフード協会が毎年行っている犬猫飼育実態調査によるデータ(2021年)が活用されています。約4,300人の回答者から得たデータを分析した結果、犬を飼っている人の5.7%、それに対して犬を飼っていない人の14.8%が喘息を発症し、猫を飼っている人の5.6%、それに対して猫を飼っていない人の13.5%が喘息を発症していました。
また、喘息の発症リスクについて見てみると、喘息発症リスクのオッズ比は、犬猫の飼育経験がある人を「1」とした場合、犬の飼育経験がない人は「2.01」となり、猫の飼育経験がない人は「2.24」となりました。
つまり、犬や猫の飼育経験者は、未経験者に比べて喘息の発症リスクが「半減」していることが明らかになったのです。
犬や猫と暮らし始める時期によってリスクに差はある?
この研究では、犬や猫の飼育経験の時期と喘息発症リスクとの相関関係についても分析がなされました。その結果、犬の場合、若年期に犬と暮らした経験のある人は、そうでない人と比較して喘息の発症リスクがおおむね低かったのですが、猫の場合は、全ての年齢層で喘息の発症リスクがほぼ一定であることがわかりました。
このことは、幼少期での犬とのふれ合いが、喘息の発症予防の重要な時期となる可能性があることに対して、猫の場合、喘息の発症予防に重要な時期は特に見られないということを示しています。
また、スウェーデンの研究者による研究では、動物とのふれ合い(自宅で犬を飼っていた、親が牧場を経営、あるいは働いていた)があった子どもの方が、動物とのふれ合いがなかった子どもに比べて6歳までに喘息になるリスクが低いという結果が出ました。さらに、1歳までの間に犬と暮らした経験がある子どもとそうでない子どもを比較したところ、3歳以降に両者の喘息発症リスクに差が現れることがわかったということです。
このように、幼少期に犬と一緒に暮らすことは、喘息の発症リスクを軽減させる可能性があると考えられます。
今後の研究に期待されるペット飼育と喘息の関係
今回の研究は、欧米諸国とは異なる環境で犬や猫と暮らす日本人からデータを収集し、日本における犬や猫と喘息の発症リスクとの関連、そして、喘息の発症に影響を与える可能性がある飼育時期を特定した初めての研究です。
そして、日本の生活環境と犬猫の飼育環境では、犬や猫とふれ合うことでアレルギー疾患の発症が抑制される可能性のあることが今回の研究で明らかにされました。
しかし、ペットは動物由来のアレルゲンを保有していて、被毛に覆われたペットとの接触は、喘息などのアレルギー疾患の潜在的なリスク要因とされてもいます。ペットのアレルゲンは、すでに喘息を発症した方に対しては、症状を悪化させる要因になっていることも事実です。
そして、犬や猫とのふれ合いと喘息の発症に関する正確なメカニズムが未だ不明であることからも、今後のさらなる研究が期待されます。