- ペットとの生活の効用
ペット飼育と介護費
人間と動物との間には、お互いに有益な結果をもたらす「相互作用(HAI)」があり、動物とのふれ合いが人間にとって心理的、生理学的、社会的にプラスに作用することはさまざまな研究結果から明らかにされています。日常的に動物とのふれ合いがある人は、そうでない人と比べて身体活動のレベルが高く、精神的な健康状態も良好で、社会的孤立度も低いとされています。具体的には、成人および高齢者に与える相互作用の影響として、日常生活動作の向上、心血管疾患のリスク低下、死亡率の低下と生存率の向上などが挙げられます。
「フレイル」という言葉をご存知でしょうか?
人間は、年齢を重ねるほどに心身の機能が徐々に衰えてきます。フレイル(虚弱)とは、心と体の動きが弱くなる状態で、「痩せてきた」「体を動かすと息切れするようになってきた」「疲れやすくなった」「外出がおっくうになった」などがフレイルのサインとなります。そして、その状態を放置し続けると、やがて「要介護(身体機能障害)」状態になるとされています。
ペット飼育が介護費を抑制する?
以前の研究によって、ペットを飼育する高齢者ではフレイルや自立喪失(介護が必要な状態や死亡)のリスクが大幅に低いことが報告されています。
しかし、ペットと暮らす高齢者の中にはすでに医療や介護を必要としている人もいます。
そこで、ペット飼育と高齢者の医療費・介護費の関係についての研究にフォーカスすると、大変興味深い結果が明らかにされました。
この研究は、東京都健康長寿医療センターによって行われたもので、日本の高齢者における「ペットを飼っている人」と「ペットを飼っていない人」の18ヶ月間にかかった医療費と介護費について調査したものです。
調査の対象となった人の平均年齢は77.7歳で、男性の割合は61.6%。対象者には高血圧や高脂血症など持病のある人がいますが、有病率にはペット飼育の有無に有意な差は見られませんでした。
少し話はそれますが、高齢者の有病率は高く、2人にひとりが高血圧、3人にひとりが高脂血症、4人にひとりが骨または関節疾患、5人にひとりが心疾患と答えています。また、7人ひとりがフレイルというデータもあり、医療費や介護費を抑えることは、高齢者自身だけでなく、社会保障制度の維持のためにも重要な問題であることが実感できます。
さて、話を戻します。
この研究の結果ですが、「ペットを飼っている人」と「ペットを飼っていない人」の医療費については、大きな差は見られませんでした。
ところが、介護費については「ペットを飼っている人」と「ペットを飼っていない人」の調査時の月額介護費が676円と1,420円で、調査期間中の月額介護費の比率は最小で1.2、最大で2.3でした。累積介護費は、9,645円と18,503円で、「ペットを飼っていない人」は「ペットを飼っている人」と比べて約2倍の介護費を支払っていたことになります。
つまり、「ペットを飼っている人」の介護費が「ペットを飼っていない人」の約半分に抑えられていることが分かったのです。
両者の介護レベルに差がなかったにもかかわらず、「ペットを飼っている人」の介護費が約半分に抑えられていることは大変興味深いことと言えます。
高齢者のQOLを向上させる可能性があるペット飼育
上記の研究は、ペット飼育と医療費・介護費との関係を調査した稀有な研究であり、この研究結果は、高齢者のペット飼育を推進することで、さらなる増加が見込まれる介護費用を削減することが可能であることを示唆しています。
また、毎日のペットの世話は、規則正しい生活を維持して、身体活動を増やし、高齢者の社会参加を促進するための重要なファクターになると考えられます。
そして、犬や猫などのペットとの暮らしは、「和み」や「癒し」など、精神的にも豊かさをもたらし、高齢者のQOL(生活の質)の向上に大きく貢献するものと思われます。