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ペット飼育の薦め

ペット飼育の効用

日本人とペットについて

帝京科学大学
人間動物関係学研究室
准教授・精神科医横山 章光 先生

横山先生は精神科医として、日本におけるアニマルセラピーの草分け的存在でいらっしゃいますが、それだけではなく動物介在教育や日本人の動物観といったものについても研究をされております。今回はアニマルセラピーとはなにか、日本人にとってペットはどのような存在なのか、日本におけるペットとの共生社会の発展・普及についての御意見を伺っていきたいと思います。

インタビュアー
株式会社JPR 獣医師 飯田恵理子
飯田:

まず、先生が行っているアニマルセラピーというものについて教えてください。
アニマルセラピーとは、一体どういったものなのでしょうか。

横山先生

アニマルセラピーとは、人が動物と関わった時の心の動きを利用して、その効果を医療や教育に生かしていこうとするものです。動物を見たり触れ合ったりしたときに人の中に安らいだ気持ちや元気づけられたりする気持ちといったポジティブな感情が生じるのはこれまでも経験的に分かってはいましたが、それを学問化して、実際に臨床で使用しようとしているのがアニマルセラピーです。

飯田:

動物によってポジティブな感情が生じる、ということは、ペットを飼って動物と触れ合うことは人にとってメリットのあることなんですね?

横山先生

確かにペットを飼うことによって、家族の会話が増えたり、孤独感が消失したり、規則正しい生活になったりするといったメリットもたくさんあると思います。しかし、すべての人に対してメリットだけがあると考えてしまうと、問題もあります。中にはペットとの生活をストレスに感じたり、ペットと自分だけの世界に閉じこもってしまうというデメリットに陥ってしまう人もいないわけではありません。ですから、デメリットが生じない形や生じない場面でのメリットの活かし方を実現することが大事なことになります。

飯田:

ペットを飼うことがデメリットになってしまうのは、何か原因があるのでしょうか?

横山先生

自分の生活に足りないものを無理にペットで埋めてみようとしたり、ペットに過大なメリットを求めて飼うことに固執するのが良くないのでは、と私は考えています。ペットのメリットはあくまでペットを飼ってみたら自ずと生まれてくるもので、メリットありきという意識だけで飼うのは、飼ってみたもののいろんな状況・条件下でたまたまメリットが感じられなかったり、感じられなくなったら、今度は自分のペットが必要ない存在に転化していまい、それはそれで間違いに陥りやすいのではないかと思うからです。
ペットは人に飼われて愛されることによって初めて、ただの動物からペットになるのです。ペットの延長には必ず人(飼い主)がいて社会があるという関係性を忘れてしまうと人にもペットにも良いことにはならず、ペットを飼うことによる良い効果というものも生まれないのではないでしょうか。

飯田:

しかし、実際問題として私達は何かの理由をつけてペットを飼おうとしますよね。
そもそも、人はどうしてペットを飼うのだと思われますか?

横山先生

動物は人と違ってぜいたくをしたいとか言わないし、飼い主の秘密を外に漏らしたりしないからじゃないですか(笑)。でもこれは飼ってみたら分かることで、動物が好きな人は気がついたら自然にペットを飼っているんじゃないですか。 本来、ペットを飼うということはよく考えるととても面倒くさいことですよね。餌をあげなければいけないし、しつけもしなければいけない、散歩もしなければいけない。時間もお金もかかる。いろいろな責任も生じてきますよね。でも、実際に飼ってみるとその面倒くささがとても心地よいことに気がつきます。自ら面倒くさいことをしたくなります。その不思議な感覚にはまる人がたくさんいるからだと思います。ペットが関係性の動物と言われる由縁のような、面白いメリットだと思います。

 

飯田:

ペットの飼い方においては、日本は欧米諸国と比べてまだまだ後進国であると言われていますよね。特に日本はペットをきちんとしつけて育てることが下手だといわれています。それは日本と欧米とでは動物に対する根本的な感覚が異なるような気がするのですが、その点はどう思われますか?

横山先生

そうです。欧米では自然は制圧し、克服するべき存在であり、動物もまた人が完璧に管理するものです。ですから、ペットは飼い主の「個」のものであり、プライバシー内のものです。ペットは完全に人が管理するものという考え方が定着しています。それに対して日本は豊かな自然の中で欧米とは異なる動物観を持ってきました。動物は人間と並ぶものであり、ペットは自然からの「借り物」であるという意識を持って飼ってきました。人が管理するよりも自然のままにさせておいたほうが良いという意識があります。一見、動物に優しいように見えますが、その代わりにしつけができていない動物はさまざまな問題行動を生むようになっているのです。

飯田:

日本におけるペットの問題は日本人の動物観にあったのですね。
私達はこれを欧米のような感覚に変えていかないといけないでしょうか。

横山先生

確かに日本における動物に対する管理能力の甘さには問題があると思います。たとえば、犬のしつけがきちんとできなくて頻繁に事故が起こるとか、最後まで責任を持って飼うことができない人がいるなど、改めなくてはいけないことがあります。しかし、日本のペット観、ペットの飼い方が全て遅れているとは私は思いません。日本人の動物観がそう簡単には変わらない以上、日本人には日本人の飼いかたがあっていいし、日本のペットの飼い方にもいいところはたくさんあると思うからです。たとえば、ペットを完全なプライベートと考えている欧米、特にヨーロッパでは犬を散歩させている人に話し掛けることはあまりありませんが、日本では「可愛いワンちゃんですね」と他人同士で会話が始まることがよくあります。ペットを介して人間関係を結ぶことができるのです。日本的な風土・文化にあった人とペットの関係性を育み、発展させていくことで、新たなメリットも見出せていけると思っています。

飯田:

日本におけるペットの飼育状況は今後どのように変わっていくと思われますか?

横山先生

日本人にあるもともとの動物観は実はそう簡単に変わらないものと思っています。飼い方などにはあまり急激な変化はないのではないでしょうか。ただ、傾向として犬よりも猫のほうが飼う人が増えるような気がします。犬はどうしてもしつけなどを考えると、しっかりと管理しなければいけない動物ですが、猫のほうがその点では飼いやすいのではないでしょうか。特に、日本では住宅的事情が大きな要因となっていると思います。

飯田:

今回のお話で、動物に対して仲間のような意識を持った私達日本人は、ペットの飼い方でよい点もあれば、気をつけなくてはいけない点もあることがよく分かりました。私達は欧米の飼いかたをそっくりそのまま真似るのではなく、日本人の考え方や生活スタイルに合わせた、人とペットの関係性を反映させた日本人の飼い方でペットを飼っていくべきですね。
今回はお忙しい中、たくさんの有意義なお話をありがとうございました。

<参考文献>
・ ヒトと動物の関係学 第3巻 ペットと社会 医療と動物の関わり-アニマルセラピー- 岩波書店
・ 教育と医学 2007年2月号 動物のもつ癒しの力 アニマル・セラピー 与え、与えられるもの 慶應義塾大学出版会